2015年 05月 12日
ポスト・コロニアルをテーマの中心に据えたもう一人のアーティストが、シゲユキ・キハラ(Shigeyuki Kihara b.1975)だ。ニュージーランドに行く前から、今もっとも旬でアクティブなアーティストとして、関係者から強く推薦されていた。サモア人の母と日本人の父を持ち、現在はサモアとオークランドに拠点を置いて活動しているキハラは、植民地時代におけるポリネシア人に向けられた好奇の眼を題材にパフォーマンスを行うほか、それをビデオや写真としても発表している。西サモアは1920年から62年までニュージーランドの委任統治領となっており、マーク・アダムスが撮影していたサモア人タトゥーイストもそうだが、サモア系ニュージーランド人の数は多い。 さらにサモアはニュージーランドに統治される前の1900年から1914年まではドイツの植民地で、その間にサモア人はドイツの各地でVölkerschau(人間動物園、人間展示)としてその文化と生態を売り物にするエキゾティックな見世物に供された。そのことに想をえて作られたキハラのパフォーマンス「Culture for sale」は、2011年にベルリンではじめて発表されたもの。サモア人のダンサーが、観客がお金を払った時にだけ短い踊りを踊るというもので、権力(お金)がいかに文化的、社会的、政治的、精神的なコンテクストに影響を及ぼすかということを観客に問いかける。 また、2004年に発表した「Fa’afafine: In a Manner of a Woman」(2008年にはニューヨークのメトロポリタンミュージアムで展覧会も開かれた)は、ポリネシア人たちをエキゾティックなまなざしで描いた19世紀の絵葉書や写真を真似て作られている。ファアファフィネ(Fa’afafine)はサモアでは第三の性を表す言葉で、男性として生まれながらも、女性的な素質をもった人物をあらわす。サモア文化のなかではその存在は伝統的に公に認められてきたそうだ。キハラ自身もファアファフィネで、男性として生まれながらも、現在では女性として生活している。 この作品は三連の写真からなり、一枚目は熱帯の植物を背景にアンティーク調の長椅子に胸をあらわにした上半身を起こして横たわる女性が、19世紀のエキゾティックな写真に典型的な仕方で撮影されている。二枚目では女性の腰蓑がとられて陰部が露わになり、三枚目では陰部から男性器がのぞいている。 キハラは西洋人がポリネシア人に対して向けたロマンティシズムとオリエンタリズムに満ちた視線を問うとともに、セックスシンボルとしての女性、女性/男性という区分についても問いを投げかける。作品「サモア人カップル」でも、サモア人に典型的と思われる服装と持ち物をした男女が並んで写されているが、両者はともにキハラ自身が扮したもので、男性の下半身には別の人物の写真が合成されている。キハラは性による二分法や、文化的ステレオタイプに問いを投げかけることによって、自らのアイデンティティの在処を探るとともに、他者から押し付けられた視線に対する異議申し立てを行っているのだろう。 マオリ出身のメディア・アーティスト、リサ・レイハナ(Lisa Reihana b.1964)もポスト・コロニアリズムの文脈で語られることが多いが、彼女の「デジタル・マラエ」(2001-)シリーズはコロニアル(マオリ)対西欧といった枠組みだけには収まらない、文化的な多様性をもった現代社会を浮き彫りにした作品だ。マラエは集会場を意味する言葉で、マオリ社会においては祖先の霊が宿る神聖な場所として重要な意味をもつ。この作品のなかでは、マオリの神聖な祖先たちが、デジタル処理されたハイパーリアルで現代的なセッティングの下に撮影されている。たとえば、マオリの戦いの神がサーフィングをし、顔に刺青を施した男性が19世紀のヴィクトリア朝の黒づくめのダンディな服装をし、コルビジェの椅子に座っている。コマーシャル写真の撮影のように明るいライトを浴び、暗いバックのなかから浮き上がるようにして写しだされた人物たちは、等身大以上のサイズに引き伸ばされていることもあわさって、圧倒的な存在感を放っている。レイハナはこの作品のなかで、マオリ社会の古代からの価値を、現代の枠組みのなかへ位置づけることを通じて、作品のなかでこそ成立する現代的なマラエを創出しようとしているかのようだ。 参照) シゲユキ・キハラ Shigeyuki Kihara http://shigeyukikihara.com/ リサ・レイハナ Lisa Reihana http://www.inpursuitofvenus.com/ #
by curatory
| 2015-05-12 16:56
| 海外作家賞
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