2012年 10月 25日

シンガポール国際写真フェスティバル(SIPF)

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(国立図書館前広場に設けられた展示用仮設コンテナ)


 今年で第3回目となるシンガポール国際写真フェスティバル(SIPF、2012年10月5日~11月17日 http://sipf.sg/)を訪れた。SIPFは2008年にはじまったばかりのまだ若いフェスティバルで、2年毎に開催されている。フェスティバルの目的は「東南アジアの作家にとってのプラットフォームを提供する」ことであり、東南アジアではじめての試みだという。
 東南アジアの自由貿易、中継基地として発展してきたシンガポールは、2000年代頃からは、商業の拠点としてだけでなく、情報の交流や文化的な側面においても国際的な拠点都市となるべく、教育やインフラを整備してきた。2006年から政府主導ではじまったシンガポール・ビエンナーレも、国際的な現代アートの祭典として定着しつつある。
 SIPFは現代美術を扱うシンガポール・ビエンナーレの写真版を目指したもので、東南アジアの写真家たちの良質の写真を紹介しているだろう、という期待を胸に訪れてみたものの、全体の印象としてはまだまだフェスティバルとしては未熟な感じで、作品の質にもばらつきがあった。
 フェスティバルの中心を占める展示は、世界各国からの公募で集まった作品である。それら数千点に及ぶ作品のなかから、今年は、Alejandro Castellote(フォトエスパーニャの創設者の一人)、Patricia Levasseur de la Motte(インディペンデント・キュレーター)、Zeng Han(インディペンデント・キュレーター、写真家)の三名が作品を選定し、最終的にはカンボジア、メキシコ、日本、ペルー、タイ、フランスといった世界各地の25カ国から414作品が選ばれ、6箇所の会場で展示された。
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(仮設コンテナ内)

e0249498_1624958.jpg(Photographic society of Singapore, Selegie Arts Center)

 展覧会は基本的に雑多な写真の寄せ集めという印象が大きかったが、私が訪れたなかではサブステーションギャラリーの展示が宗教をテーマに4名の作家でまとめられており、Tristan Cai(シンガポール)による宗教と科学の関係を扱った作品シリーズ『Tales of Moving Mountains: Why Won’t God Go Away?』や、Fernando Montiel Klint(メキシコ)の鮮やかな色彩で現実のなかに狂気を出現させたシリーズ『Acts of Faith』などが興味深かった。
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(The Substation Gallery)

 公募のほかにもスペシャルプロジェクトとして、Wang Qingson(王慶松)の『History of Monuments』と、Thomas Sauvinによる『Silvermine』が、シンガポール美術館に近接するシンガポール経済大学 (SMU) のコンコースで展示されていた。21世紀の中国を席巻する消費文化を風刺的に描いた作品で知られる王の展示は、高さ125cm幅42mという長大なもので、ミケランジェロの彫刻や自由の女神など古今東西の様々な文化のなかで価値あるとされるモノと、つまらないとされるような事物とを寄せ集め、実際の人物にポーズをとらせて実写したものだった。一見したところCGによる合成かと思われる作品だが、すべて実際にモデルを使って撮影したものなのだという。泥まみれのレリーフ壁画調に仕上げられた作品は、その大きさにまずもって圧倒される。オフィシャルに価値あるものと認められてきた歴史と、そうでない詰まらないものとをごちゃ混ぜにして創造された新たな歴史は全体を通しても何の脈絡も見えてこない。その無意味さの半面、そこに注ぎ込まれた厖大な労力とのギャップが、公式な歴史がフィクショナルともいえる形で日々量産されている中国の現状への厳しい批判となっているのであろう。
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 Wang Qingson(王慶松)『History of Monuments』(部分)at SMU Concourse

 一方、Thomas Sauvin(トーマス・サルヴィン)による展示は、リサイクル場で廃棄処分されかかっていたネガを集め、そこからプリントした写真を200点ほど展示したものだった。80年代から90年代後半にいろいろな場所で撮られた家族写真やスナップフォトなどを中心としたその写真群は、イメージの宝庫ともいえるアノニマスな写真の魅力を伝えていた。
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 Thomas Sauvin『Silvermine』at SMU Concourse

 展覧会のほかにも、ポートフォリオレビューや、写真についてのレクチャー、フィルム上映会、イブニングスライドショーなどがSIPF会期中には開催された。今年はマグナムとの共催でのイベントもいくつかあったようだ。また、ピンホールカメラや暗室といった、一般にも親しみやすい題材で写真に取り組むことができる教育プログラムもあり、写真愛好家の裾野を広げようとする試みもあった。
 先にも述べたとおり、全体の印象としては洗練されたものというわけではなかったが、写真を見せ、語り、学ぶ場所を自分たちの手で作り上げていこうという意欲は十分に感じられた。英語を公用語として話し、近隣のアジア諸国とも密接な関係を築いてきたシンガポールという場所の利点を活かし、東南アジアの写真の拠点になろうという意気込みはわかる。だが、多方面に幅広く手をのばしすぎているだけに、焦点のぼやけたまとまりのないイベントのように感じられもした。展覧会についても、世界各国を対象とした公募展に重点をおくだけはなく、東南アジアの良質の作家を集めた企画展を開催していくことも重要ではないだろうか。シンガポール美術館を会場とした企画展が同時に開催されれば、フェスティバルの印象もまったく違うものになるだろう。
 いろいろと問題点も目に付いたとはいえ、国際写真フェスティバルを開催するという自負は十分に感じられた。ひるがえってみて東川町も、海外作家賞があるというだけではなく、「国際」の名に値する何らかのアプローチをそろそろきちんと考えるときではないだろうか。長年の歴史ある賞というだけでなく、何かを発信していける仕組みを新たに創出していく必要があるだろう。

e0249498_16192927.jpgArtist talk by Yee I-Lann at Singapore Art Museum, Glass Hall
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# by curatory | 2012-10-25 15:51 | 写真フェスティバル