2014年 12月 24日
2005年に創設されたアンコール・フォト・フェスティバル&ワークショップ(APFW)。東南アジアで開催されるフェスティバルとしては最も長く、今年で10回目になるそうだ。アジア・パシフィック・フォトフォーラムのミーティングも兼ねて、12月の第一週目に、はじめて参加する機会を得た。 ほとんど予備知識もないまま、地図を頼りにホテルからメイン会場となるロフトに向かう。道に迷っていると、たまたま前からアントワン・ダガタが歩いてきたので、つかまえて場所を教えてもらう。フェスティバル事務局に顔を出すと、プログラム・ディレクターのフランソワーズ・カリエと、アジア・コーディネーターのジェシカ・リムが忙しそうに働いていた。 APFWはフランソワーズ・カリエが創設したのかと思っていたら、彼女は2007年からの参加で、もともとは、現在もディレクターをつとめるジャン・イヴ・ネイヴァルが創設したものらしい。事務局の主軸となるのはこの三人で、ジャンはフランス、フランソワーズはベルギー、ジェシカはシンガポールの出身という、つまり生粋のカンボジア人ではないチームによって運営されている。多分、このことがAPFWを特徴づけるうえで重要な意味をもっているのだろう。ネイヴァルはAPFWの主軸として、「発見(Discover)」「教育(Education)」「分かち合い(Sharing)」の三つを挙げているが、そのなかでも、「教育」の比重は大きい。 カンボジアでは、1975-79年のクメール・ルージュの政権のもと、100~200万人ともいわれる数の死者がでて、中でも知識階級は標的にされた。その結果、教師、医者、芸術家といった多分野の、若年層を指導する立場のものがほとんどいなくなった。そうしたなか、一から何かを築き上げていくことは非常に厳しい。カンボジア人ではないチームが、写真における「教育」に比重をおいた活動をカンボジアで展開するということの意味は大きい。 APFWはフェスティバルであるとともに、ワークショップの場でもある。フェスティバル中にシエムリアップ市内の各所で展開される展示によって、アジアの写真家に発表の場を提供するだけでなく、活躍中の写真家たちを指導者に招いて、ポートフォリオの提出を経て選抜された若手写真家たちにワークショップを無料で提供する。そこで指導を受けた卒業生たち(今では300人以上になるらしい)が、今では世界で活躍する写真家へと成長しているという。 もう一つ重要なワークショップとして、アンジャリ・フォト・ワークショップがある。これは2005年にアントワン・ダガタが主導してはじめたもので、元ストリートチルドレンを対象にした写真のワークショップだ。これを機に、ストリートチルドレンに食べ物や教育、福祉を提供するアンジャリ・ハウスが設立され、毎年フェスティバル期間中に、写真家たちをテューター(指導者)とし、アンジャリ・ハウスの子供たち50人ほどをシエムリアップ各所に連れて行き、写真を撮る10日間のワークショップをする。最終日には子供たちが撮影した写真のプロジェクションが行われ、一人ひとりに言葉が添えられた写真プリントが手渡されていた。スライドで投影される子どもたちの写真は、カメラを通して新たな世界を発見することの悦びと、写真を通じた表現の可能性を模索するような、嬉々とした手ごたえと成長を感じさせるものだった。以前に観た映画「未来を写した子どもたち」でも、インド・コルカタの買春窟で生まれ育った子供たちにカメラを手渡し、一人ひとりが新たな世界を見出していく様が写し取られていたが、カメラを介しての視覚コミュニケーションには、たくさんの可能性が開けていると思う。絵作りを競うのではなく、世界をどう解釈するかが重要なのだ。 一方の展覧会は、市内各所の主に屋外で展開されていた。特に今年から、写真に興味のない道行く人たちにも気軽に見てもらおうと、屋外展示を増やしたらしい。小さい町なので、中央を流れるシエムリアップ川沿いを中心に3、4時間ほど歩き続けて、すべての展示を見て回ることができた。パネルに大きく引き伸ばされた写真が、野ざらしで立っているので、目をひきやすい。フランソワーズ・カリエが写真におけるストーリー性を重視することもあってか、APFWはドキュメンタリー系の写真フェスティバルだとされているが、長江のダム建設の写真(A Quiet River, Zeng Nian)や、絶滅危惧種の売買を扱った写真(Trading to Extinction, Patric Brown)など、確かにドキュメンタリー的な写真が多かった。一方で、最近の傾向として、コンセプト的な比重も強い作品、たとえば頭に荷を載せた人々のポートレイトを撮ったFlorian de LasseeのHow much can you carryなども展示してあった。 カンボジア出身の写真家はまだあまり多くは育っていないようだが、そのなかでも海外での発表の機会も多いキム・ハク(Kim Hak)の写真は見応えがあった。ロン・ノル政権崩壊後の1975年から家族が受けた苦難の日々の記憶となる物(知識階級であったことを隠すために、ほとんどの写真や身分証明書、記念の品は捨てられてしまった)を撮影した「Alive」のシリーズはビジュアル的にも洗練された力強いものだった。 総じて、熱気に満ちた、祝祭感のあるフェスティバルだったといえる。フェスティバル参加者が家族のような親密さを保てるように、事務局側が意識的にイベントの規模が大きくなりすぎないような工夫もしているのだというが、すべてのイベントは形式ばらず、和気あいあいとした雰囲気のなかで催された。とはいえ、内輪な雰囲気というのとはまた違うオープンさも備えている。メイン会場のロフトも、1階は飲食ができるスペースとなっており(台湾系中華料理が美味)、事前登録も料金も必要のないポートフォリオレビュー(プリントを見せるのではなく、アイパッドなどに保存された画像を見せるのが主だった)も、その席で行われていた。気軽に、けれども真摯にという意識が共有されているように思われた。リピーターが多いのもうなずける。東南アジアの、カンボジアで開催される写真フェスティバルとして、存在感と必然性とを兼ね備えたフェスティバルだ。 アンコール・フォト・フェスティバル http://angkor-photo.com フェスティバル創設のきっかけや、10年目を迎えてについては以下のインタビューが参考になる。 Angkor Photo Festival. The Interview: Jean Yves Navel http://notonlyphotography.com/tag/jean-yves-navel/ 10 Years of Angkor Photo Festival: Interview With Francoise Callier http://invisiblephotographer.asia/2014/02/08/interview-francoisecallier-angkorfest/ カンボジアでのアントワン・ダガタを撮影したドキュメンタリー映画のトレーラー The Cambodian Room: Situations With Antoine D'agata(2009) http://www.imdb.com/video/wab/vi2840266009/
by curatory
| 2014-12-24 12:10
| 写真フェスティバル
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