2016年 06月 03日
Juan Orrantia (1975-) ボゴタに育ち、現在はヨハネスブルク在住のフアン・オランティアも、ミドルクラス出身の自分の体験に根差したコロンビアでの日常を写真を通して作品化した「Sugarcoated Blues」(2013-)を制作している。イエール大学でビジュアル文化人類学、ICPで写真を学んだフアンは、記憶、歴史、暴力の余波、ポストコロニアルな都市と生活における影響などをテーマにプロジェクトを続けている。コロンビアは1970年代からの三十余年にわたる麻薬カルテルを中心とした大規模な麻薬取引のなかで、麻薬にまつわる事象が社会的、文化的、経済的、政治的な身の回りの様々な出来事を支配してきたといえる。街角でふいに起こるテロ、誘拐、性的暴力など、そうしたものが平準化し、身体化するなかで青春時代を過ごしたフアンは、それらが文化や社会に及ぼした影響がどういうものだったかを、写真のもつあいまいさや親密さ、多義性を用いながら、詩的ともいえる手法で物語ろうとする。コカの一大産地であり、有名なパラミリタリーのリーダーの縄張りであった、コロンビア北部シエラ山地の小さな農村を訪れたときの写真や、たくさんの死者を出したテロを報じる新聞の切り抜き、セクシーな女性のピンナップや、日記風のものなど、単一の因果では語ることのない縒り合さった状況を、複数の章立てと手法とで提示している。イブニングニュースを飾るようなテロや、世界中でも注目される麻薬王エスコバールの存在などが、若者が映画館に行き、車に興味をもつのと同じような次元の身近なものとして日常にある―そうした状況をあらわすのに、物事を並列的に掲示することのできる写真は格好のメディアだったのだろう。個人的な経験にこだわりながらも、それをより大きな枠組みからとらえ直そうとする彼の視線はしなやかだ。 Camilo Echavarría(1970-) カミーロ・エチャバリアは、「風景」にとって、それを観察する「人」はなくてはならない存在であるということから、風景における主観性や理想主義の問題を意識した作品を制作している。コロンビア的なるものというものとは少し距離を置いたところで、コロンビアの「風景」をとらえようとしている作家だ。現在進行中のプロジェクトである「Illustrated Landscapes」は、幼少期に両親に連れられてコロンビアの様々な地方を旅したときに受けた強い印象や記憶を出発点に、自身の記憶の問題だけにとどまらず、風景を前にして受け取った身体的な感覚や記憶を、写真のなかにいかに取り込めるかということをテーマとしたものだ。そのため、写真が撮影された一瞬だけに特権を与えるのではなく、事後的に人物や人為を感じるものを風景のなかに加えることによって、現実には存在しないが、その場所での経験を通じて感じられた、「理想」の風景を構築しようとする。それはカミーロにとっての理想ということだけでなく、「風景」をめぐっての崇高や美学的な理想の概念についての歴史もふまえた上でのことだろう。そして、人に観察されることによってはじめて「風景」というものが存在するようになることから、観察する「時間」性もそこには必要とされる。カミーロはあらゆる細部に目を凝らすことができるようにとプリントのクオリティに細心の注意を払うほか、写真をつなぎ合わせることによって時間を組み込んだビデオ作品を制作するなど、観察にかけられる時間のなかで深まる経験のあり方を作品においても重視している。 Mateo Pérez (1973-) マテオ・ぺレスは広告や建築写真も手掛ける写真家だが、自身の作品として、コロンビアにおける社会的風景とでもいえるようなものをテーマとした作品を制作している。「Tequendama Falls」は、ボゴタ郊外にあるコロンビアで最初の入植地でもあり、観光地としても有名でありつつも、ボゴタからの排水の溜め桶として汚染された場所になり果て、自殺の名所としても有名になったテケンダマ滝に関するプロジェクトだ。「Terrarium」シリーズは、カリブ海のけがれなき楽園としてリゾート地としても注目を浴び始めたコロンビア領プロヴィデンシア島に打ち捨てられた車の残骸をとらえたもので、イメージと現実のギャップを提示するとともに、廃棄する施設も存在しない島の暮らしの一端をうかがわせるものである。 カミーロもそうだが、マテオもアメリカで写真を学んでおり、アカデミックともいえる写真の手法を介してコロンビアにおける「風景」の問題に取り組んでいる写真家といえるだろう。 =
by curatory
| 2016-06-03 23:03
| 海外作家賞
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