2017年 06月 30日
以下、ポーランドの写真家たちの簡単な紹介をしておく。
ナタリアLL (Natalia LL, 1937-) 「Consumer Art」ほか。ワルシャワ国立美術館の展示より 写真を主に用いたアーティストで、まず名前が挙がってくるのは、ナタリアLLとユゼフ・ロバコフスキだろう。両者ともポーランドを代表するアーティストで、80歳近くになる現在でも展覧会などの開催で精力的に活動している。 写真を中心に、パフォーマンスやビデオアートも制作。1970年にはPERMAFOギャラリーを共同で創設し、前衛アートの最前線としての役割を果たした。1970年代に制作した、バナナ(当時のポーランドでは高級品+性的隠喩)や、フランクフルト、アイスクリームを食べる女性(ナタリア本人と思われていることが多いようだが別人)を写した「Consumer Art」が代表作で、1975年頃よりフェミニストアートの文脈で国際的にも活躍する。80年前後から自身の身体的な不調もあってか、幻想的な「Dreaming」シリーズや、自らの身体を用いたパフォーマンス的な要素の強いシリーズなどを制作してきた。身体と精神の関係を、ガスマスクをかぶったり、悪夢ともいえるような非常に強いインパクトのあるイメージのなかで、意識や自然の様々な在り様をとらえようとしている。
ユゼフ・ロバコフスキ(Jozef Robakowski, 1939-) 4 fields of depth, 1969 (Analytic-conceptual photography シリーズより) ポーランド第二の都市ウッチを拠点に活動。実験的なビデオアートの第一人者とされ、1960年代はじめから実験的なフィルムの制作、70年代にはビデオアートも手掛けているが、最初のスタートは写真制作(1958-1967)からだった。60年代には「OKO」「Zero61」などのアーティストコレクティブを創設。ネオ・アヴァンギャルドの作家として、当時の共産主義体制下において厳しい検閲の問題に対抗するため、徹底してプライベートなテーマや日常性を取り上げながらラディカルかつユーモラスな作品を発表し続ける。ネオ・アヴァンギャルドアーティストたちの作品のコレクションや展覧会なども企画するなど、幅広い活動をしている。2016年にはロバコフスキの写真作品に焦点を絞ったカタログも出版された。
グジェゴシュ・コヴァルスキ(Grzegorz Kowalski, 1942-) 左)フォトグラフィック・オブジェクトシリーズより 右)『Questions』(2014)より 自他の境を問うものとしてアートを用い、写真というよりは彫刻、パフォーマンスアート、インスタレーションを主とする作家といえるだろう。写真に関連したものとしては、1970年代に制作した、人の痕跡、記憶をとらえた「フォトグラフィック・オブジェクト」シリーズや、被写体に三つの質問を投げかけ、それに対する答えを写真に捉えた「PYTANIA/Questions (質問)」がある。建築家のオスカー・ハンセンの「OPEN FORM」の理論に共感し、批評家、教育者としても数多くの学生、アーティストを育ててきた。
ゾフィア・クリク(Zofia Kulik, 1947-) 1978-1987年はパートナーのPrzemyslaw Kwiekとともに、Kwiekulikというアーティストユニットを組んでいた。自らの居住スペースをギャラリーやワークショップの場として開放し、そこで起こった出来事の写真も含めたドキュメンテーションを作成。現在もそのアーカイブをいかにして整理し、創造的に用いるかということに心を砕いているという。1987年からはゾフィア・クリクとして単身で作品制作をはじめ、反復的なモチーフとしての裸体(アーティストのズビグネフ・リベラを被写体としている)をコラージュした曼荼羅のような作品を制作。形式的で非人間的な共産主義政権への批判ともとれるが、中世の絵画や、幾何学模様の美しいオーナメントのようにも見える作品の射程の幅は広い。
テレサ・ギエルジンスカ(Teresa Gierzyńska, 1947-) ギャラリーで実際に見せて(触らせて)もらった「Touch」シリーズ。身体の断片が写真とともに提示される。 1967年頃から撮りためているセルフポートレイト、スナップ写真をもとに作られた「about her」シリーズなどがある。ほとんど交差することのない視線、身体の一部、裸の背中に記された夫の名前など、アーティストとして、そして著名な画家を夫にもつ妻、母として複雑に絡み合った存在である自身を「her」という視点から見返すことで、見られる存在としての自身を突き放しながらも、どこか愛おしんでいる感覚が伝わってくる。身体の一部を触覚的にとりあげた彫刻と、部分を切り取られた写真を並べたシリーズ「Touch」(1978)も、親密さのなかに浮かび上がる触覚性が際立っている作品だ。
ヴォイチェフ・プラジュモフスキ(Wojciech Prażmowski, 1949-) 『Fotografie 1987-1997』より 1990年代後半より作り始めた、家族写真やファウンドオブジェ、ネガ、モンタージュなどの手法を用いた「フォトオブジェ」シリーズが代表作。レフチンスキの「写真の考古学」との関連で語られることもあり、古い写真を用いて新しい物語を生み出そうとしている。フォトオブジェのシリーズだけでなく、1999-2000年にはポーランドの各地で失われつつある風景を撮影したモノクロ写真のシリーズや、ポーランドの代表的詩人チェスワフ・ミウォシュの足跡をリトアニアとポーランドに辿った想像上の旅を撮りおさめたシリーズなども発表している。ややもするとノスタルジックな美しさが前面にでた印象も受けるが、写真を用いて独特の詩的な世界を構築している。
アンナ・ベアタ・ボフジェーヴィチ(Anna Beata Bohdziewicz, 1950-) 『1981 Life Anew. Photodiary or a song on the end of the world』(2014)より。 左の写真のテレビ画面には「連帯」を結成した当時のレフ・ワレサが写り、 それを取材しているボフジェーヴィチの姿も真後ろにある。 もともとは考古学と民族学を学んだのちに映画を撮り始め、1980年代より意識的に写真の撮影をはじめるようになった。日常の個人的な記録としての写真とあわせ、1989年以降は政治的、社会的にも激動するポーランドをジャーナリスティックな視点からも撮影し、両方の写真を混ぜ合わせた「フォトダイアリー」シリーズを続けている。現在までに数千枚の写真が撮られたものを、展覧会などの発表の機会に応じて編集し直し、単文のテクストを写真に添えて提示する。過去には普通に行われていた発表物に対する検閲によって、展示を却下された作品も多数あったようだ。日常と政治が地続きでつながっていることを、時にシニカルに、時にウィットにとんだ手つきで示している。
ヴィトルド・クラソウスキ(Witold Krassowski, 1956-) 『Afterimages the Polish』(2009)より 社会ドキュメントやルポルタージュを撮り続けている写真家。写真集「Afterimages the Polish」(2009)は、1989年から1997年までの写真を集めたもので、社会主義が崩壊してからのポーランドで生活する人々の様子が撮影され、高く評価されている。
by curatory
| 2017-06-30 09:33
| 海外作家賞
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