2017年 06月 30日
ズビグネフ・リベラ(Zbigniew Libera, 1959-) 「LEGO Concentration Camp」(2001)ワルシャワ国立美術館での展示より 「Pozytywy」 (Positives, 2002-2003) 写真集『Fotografie』より 熊本現代美術館にも作品が収蔵されており、日本でもそれなりの知名度があるだろう。1980年代初期から活動をはじめるが、反政府的な出版やポスター制作のため投獄され、1990年代からはポーランドにおける「クリティカル・アート」の最前線で活躍する。玩具のレゴで強制収容所を制作した作品「LEGO Concentration Camp」(1996)で物議を醸すなど、挑発的な作品を作り続けている。 近年はメディアやマスカルチャーにおけるイメージの重要性を分析するような、写真を中心に据えた作品を発表している。「Pozytywy」 (Positives, 2002-2003)では、世界的にも有名な、ナチスの強制収容所に捉えられた柵越しの囚人の写真や、ベトナム戦争時に泣き叫びながら裸で逃げる少女の写真などをもとに新たに写真を撮りおろし、トラウマとその表象の関係性について考えさせる。2012年には、戒厳令の街の通り、刑務所、架空の新聞のページなど、これまでの写真作品をまとめた最初の写真集『Fotografie』(Raster, 2012)を出版した。
ヴォイチェフ・ヴィルチク(Wojciech Wilczyk, 1961-) Small Ghetto, View from Grzybowska Street towards the south-east, 18 March 2011 『Other City』より 詩人としても活躍しているヴィルチクは、過去の痕跡を可視化し、想像することを促す作品を制作している。「Other City」は、歴史家であるElżbieta Janickaと共同で行ったプロジェクトで、2013年にワルシャワのザヘンタ国立美術館で展覧会が開催され大きな注目を浴びた。現在のワルシャワの中心地には、かつてナチスによって作られた最大規模のユダヤ人ゲットー(ワルシャワゲットー、1940-43)があった。そこから多数のユダヤ人が絶滅収容所に送られるなか、初めての武装蜂起が行われるも壊滅的に破壊される。その跡地には第二次大戦後にスターリンからの贈り物として文化科学宮殿が1955年に完成し、現在でもワルシャワの一等地にあるランドマークタワーとして威風堂々と聳えたっている。ヴィルチクは文化科学宮殿を含め、過去にゲットーがあった地区を高い建物上から大型カメラで俯瞰的に細部まで綿密に記録することで、今は存在しない「別の都市」を指し示す。すべてを覆い隠すかのように建設されたその後の社会主義時代、それに続く資本主義時代の諸相を、精緻に写された写真のなかに探り、想像することを促している。 他にも、現在では廃墟になったり、別の用途(映画館やコミュニティセンターなど)に使われている、かつてのシナゴーグや祈祷所を撮影した、ポーランドに遺されたホロコーストの痕跡を辿るシリーズ「There is no such thing as an Innocent Eye」など。過去に起こったとりわけ負の記憶が、いかに隠ぺいされつつも露わになっているかを可視化する試みを続けている。
アグニエシュカ・レイズ(Agnieszka Rayss, 1970-) 上)写真集『THIS IS WHERE THE END OF CITIES BEGINS』(Sputnik Photos, 2016) 下)写真集 『American Dream』(Institute Pro Fotografia, 2011) ドキュメンタリー写真を主としたアーティストコレクティブである「スプートニク」の共同創設者。ポストコミュニズムの国がどのように西欧のトレンドをコピーし、ポップカルチャーが生み出されるかについてや、ジェンダーなどをテーマとする。「American Dream」(2005-2010)は、レイズが学生時代を過ごした共産主義時代には考えられもしなかった、ミスコンテストや有名になりたい願望を実現しようとする女性の姿を、批判的にというよりは、自らの姿を重ねあわせるような共感をもってドキュメントしたもの。近年ではエコロジーをテーマにランドスケープの撮影も行っている。
イゴール・オムレツキ(Igor Omulecki, 1973-) 「Universe」シリーズより ポーランドで暮らす身近な人たちを撮ったスナップ的な写真シリーズ「Beautiful People」(1999 –2003)などもあるが、近年では音を視覚的に表現したものや、顕微鏡で拡大した世界をとらえた写真など、実験的な試みを繰り返してる。特に「BIOS」プロジェクトでは、コンピューターに接続された生物機械として自身を観察したリアリズムの新しい形態を模索している。
アネタ・グシェコフスカ(Aneta Grzeszykowska, 1974-) 写真集『Love Book』(Raster, 2011)より 自己の消去や、自己と他者の境界を探るような作品を制作。家族アルバムの写真から自分の姿だけを消去した「ALBUM」(2006)、顔に色を塗り、ネガプリントでも自分だけが白く浮かび上がるような差異化をほどこした「Negative Book」、自分の顔や身体のパーツを豚の皮を使ってレプリカを作り撮影した「Selfie」、シンディ・シャーマンの「Untitled Film Stills」をカラーでリメイクしたシリーズなど、時間をかけた丁寧な手作業を通じて、非常に完成度の高い作品を制作している。他にも、幼かった頃の記憶をもとにして手縫いで作った「人形」シリーズなど、自身の存在の境界やミメーシスの問題を、写真というメディアだけにこだわらず、イメージ全般、そして立体も用いた様々な手法によって問いかける。
シモン・ロジンスキ(Szymon Rogiński, 1975-) ポーランドの地方都市を車で訪れ、夜がふけた暗がりのなかで輝く人工灯や車のヘッドライトのもとで撮影した「Poland Synthesis」(2003-2006)や、明け方の光の中で写した「Brightness」 (2004-2007)など、幻想的な光のもとに立ち現れた異次元の世界を写しだす。
ラファウ・ミラフ(Rafał Milach, 1978-) 『The Winners』(2014)より 「スプートニク」の共同創設者。10年以上にわたり、ロシア語を話す地域、中央、東ヨーロッパにおける変化をテーマに撮影を続けている。ベラルーシで撮影された「The Winners」シリーズは、公的な権威によって「勝者」と認定された人たちを、表彰された所以の場所や物とともに撮影したもの。(ミンスクで一番素敵な階段、一番愛し合ってるカップル、一番効率的なジャガイモ農園など)。プロパガンダをそのままになぞって撮影することによって、現実とのギャップや、プロパガンダの意味などを問いかけている。 「JL-KP / Playing the Archive」(2011)より 「Lives of Unholy」(2009-12)より ポストモダンの社会におけるイメージと物のあり方について、モニュメント、アーカイブ、博物館、風景などを手がかりに作品を作っている写真家/批評家。写真の考古学を唱えたレフチンスキにオマージュを捧げた「JL-KP / Playing the Archive」(2011)は、レフチンスキが遺した膨大なアーカイブをアトラスのように提示することで、独自の相互関連を見出し、創造的な再発見をしようとする意欲的な試み。「Lives of Unholy」(2009-12)は、時に非常に暴力的な形で塗り替えられていったワルシャワの歴史を、モニュメントやパブリック彫刻を通じて見ようとするビジュアル・アルケオロジー。「Sculpture of the Negative」(2015)は東プロイセン時代に繁栄したものの、第二次大戦中に存続をやめたローズ家の破壊された彫刻コレクションの断片と、同地域で戦前に撮影をしていたポーランドを代表する写真家故Zofia Chometowskaの写真アーカイブ(WW2で破壊されたワルシャワを撮影した写真など)を並列させることから現代的意味を読み解こうとするもの。 レフチンスキが唱えた創造的な写真の使用法の可能性を、批評だけでなく、他ジャンルの作家とのコラボレーションや制作の実践を通して探ろうとしている。
by curatory
| 2017-06-30 09:45
| 海外作家賞
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